相続権の基礎知識
相続とは、人が亡くなったときに、その人(被相続人)の財産的な地位を、その人の子や妻など一定の身分関係にある人(相続人といいます)が受け継ぐということです。
つまり、相続とは、被相続人に属していた権利義務が、包括して相続人に承継されることをいいます。被相続人から相続人に受け継がれる財産のことを、「相続財産」、「遺産」と呼びます。
引継ぐ遺産には、土地、建物、現預金のみならず、貸金や売掛金などの債権も相続の対象になります。また、このようなプラスの財産に限りません。借金や損害賠償債務といったマイナスの財産も相続されます。
ただし、包括承継といっても、次のものは例外です。
相続により承継しないもの
- ①被相続人の一身に専属したもの
- ②位牌、墳墓などの祭祀財産
- ③生命保険金、死亡退職金、遺族年金など、契約や法律に基づいて支払われるもの
相続開始原因
相続は、人の死亡によってのみ開始します。戦前の家督相続のもとでは、戸主の死亡のほか、「隠居」という制度があり、戸主が生前に「隠居」すると相続が開始しましたが、 現在はこの制度は廃止され、相続は人が死亡したときにのみ開始します。
「死亡」 には、通常の死亡(自然死亡)のほか、法律上死亡とみなされる失踪宣告や認定死亡を含みます。相続人が相続するためには、当然のことですが、被相続人が死亡した時点において相続人は生存していなければなりません。
これを 同時存在の原則 といいます。
飛行機事故などで死亡した二人の死亡の先後を確定するのが困難な場合があります。この場合、同時死亡の推定 といって、二人は同時に死亡したものと推定されます。同時死亡が推定されると、二人の間で互いに相続は開始しませんが、代襲相続は生じます。
ただ、同時死亡の推定はあくまで推定にすぎませんから、反対の証拠があればこれを覆すことが可能です。同時死亡としたものとして相続された後に、死亡の先後が明らかになったときは、すでになされた遺産分割協議は無効になります。
相続というのは、人の死亡によって何の手続も意思表示もなく当然に生じるものです。
したがって相続の放棄や限定承認の手続きをしない限り、被相続人の全財産 (借金等の債務も含まれる) を一切引き継ぐことになります。
相続開始の場所
相続は、被相続人の住所において開始します。被相続人の住所とは、被相続人が死亡した時の住所である場所をいいます。
したがって、例えば、入院先の病院で死亡した場合であっても、その人の住所が相続開始地となります。
遺言相続と法定相続
相続に関しては民法で基本原則が定められています。
一般に、被相続人の財産を相続によって受け継ぐ方法に2つがあります。
第1は、被相続人が遺言をしていれば、これに従って遺産を受け継ぐ方法です。これを遺言相続ともいい、法定相続に優先します。
第2に、遺言がされていない場合には、民法が定めたルールに従って遺産を受け継ぐことになります。これが 法定相続 といわれるものです。
つまり、まず被相続人の意思を尊重して遺言の内容を優先的に適用し、遺言がない場合に法定相続によることにしています。
遺産分割と相続放棄
相続放棄について
- 【相続の承認、放棄】
- 相続は、必ずしなければならないものではありません。
- 相続財産には負の財産も含むので、負の財産が多いことが明らかな場合には、相続を放棄する方法も考えられます。
- また、相続をする場合でも、その仕方として単純承認と限定承認とがあります。
- 【単純承認】
- 単純承認とは、被相続人の財産のすべてを無限に引き継ぐことをいいます。
- 限定承認するには特別な手続は必要なく、次の場合は自動的に単純承認したことになります。
- ・相続があったことを知った日から3か月以内に、限定承認をしなかったとき。
- ・相続があったことを知った日から3か月以内に、相続放棄をしなかったとき。
- ・相続財産の全部又は一部を処分したとき。
- ・限定承認、相続放棄をした場合でも、相続財産を隠匿したり、私的に消費した場合には、単純承認したこととされます。
- 【限定承認】
- 限定承認とは、相続財産のプラスの財産の限度で、債務の責任を負う方法です。
- 限定承認をするには、相続人全員でする必要があります。
- 限定承認は、相続があったことを知った日から3か月以内にしなければなりません。
- 限定承認は、遺産より借金の方が多いかどうか不明な場合に、有効な手段です。
- また、事業を継続するために、相続放棄をすることができない場合にもとり得る手段となります。
- 【相続放棄】
- 相続放棄とは、すべての相続財産を受け継がないということです。
- 相続放棄は、相続があったことを知った日から3か月以内にしなければなりません。
- 一度、相続放棄をすると、3か月以内の期間であっても、撤回することはできません。
- 相続放棄は、家庭裁判所に対して行います。
- 相続放棄をした人は、はじめから相続人ではなかったものと扱われます。
- 相続放棄をした人の子は、代襲相続することはありません。
相続手続きの流れ
相続とは、人(典型的な例では親で、「被相続人」と称します)が亡くなった後に、その人が持っていた不動産や預貯金等の財産や借金などの負債(債務)が、法律及び遺言書等によって、指定された人(配偶者や子供等で、「相続人」と称します)に引き継がれることをいいます。
相続は、被相続人の死亡によって、被相続人の住所で開始します。
一般的な手続きの流れは、以下のとおりです。
一般的な相続手続きの流れ
- ・死亡届の提出
- (市区町村役場へ死亡後7日以内、医師の死亡診断書等)
- ↓
- ・遺言書の有無の確認
- ※自筆遺言証書・秘密遺言証書がある場合は家庭裁判所へ提出し検認を受けてから開封します。
- ↓
- ・相続人代表を決定
- (「遺言執行者」が遺言書で指名されている場合は、その人)
- ↓
- ・相続財産、債務の概要を調査
- (「相続財産目録」を作成する)
- ↓
- ・相続人の把握
- (被相続人の戸籍を取り寄せ、「相続関係図」を作成する)
- ↓
- ・単純承認・限定承認・相続放棄をするか否かを決定する
- ※限定承認・相続放棄をする場合は、相続があったことを知って日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
- ↓
- ・被相続人の所得税の申告・納付
- (4ヶ月以内、「準確定申告」といいます。)
- ↓
- ・遺産分割の協議をし、「遺産分割協議書」を作成する
- (遺言書がない場合)
- ↓
- ・各相続人の相続財産額が確定
- ↓
- ・相続税の申告・納付
- (10ヶ月以内)
- ※相続税の基礎控除額を超えた相続をした人が対象
- ↓
- ・各財産の名義変更手続
- (土地・建物等の不動産、自動車等の動産・預貯金、有価証券等)
- ↓
- ・所有権移転登記・登録手続
- (土地・建物・自動車等)